日本のデジタルコンテンツの著作権事情から思ったこと

ズバリ言って、日本におけるデジタルコンテンツの権利者側とユーザ(顧客)側の関係はほとんどの場合Win-Loseの関係だ。
理由は非常に単純である:本来顧客として買ったものを、個人運用のレベルなら自由に処分できるはずなのに、デジタルコンテンツに関してはなかなかできない。

二つの例を見ていこう:まずは音楽。
日本ではデジタル音楽配信最ービスはDRMを取ることが多い。DRMとはデジタル著作権管理の意味で、簡単にいえばネットで有料配信する音楽に再生やコピーすることを制限する仕組みだ。例えばソニー社が運営するmoraというサービスはOpenMGというDRMをとっており、コピー回数を3回までに制限したり、特定のソフトウェアでコピーしないと再生できなくしたりしている。これはどういった問題点があるかというと、moraで買った音楽を、パソコンを買い換えたり、HDDを交換したりすると、元のファイルもコピーする必要があり、その限度がある。ズバリ言ってHDDを3回交換してしまったら自分が買ったものなのに再生できないことになる。バックアップ?寝言は寝てから言え。
著作権にうるさい日本と比べて、アメリカ発のiTunes StoreのDRM技術FairPlayは遥かにましだ。FairPlayはiTunes Storeで購入した音楽はユーザが自由に無制限に何回もコピー出来る。そして再生は最大5台までの認証されたパソコンで再生できる。認証されるということは、ユーザが自由にどのパソコンを認証するかが決められ、古いもう使わないパソコンならその認証を取消て新しいパソコンに当てることももちろん出来る、要は同時に5台までのパソコンが認証できるという仕組みだ。6台目のパソコンを買っても、古い1台のパソコンの認証を取り消したら最新の6台目を認証できる。これでユーザに取ってHDDの交換も、パソコンの買い換えも、買った音楽を気にせずに済む。ちなみに、自由にコピー出来るということは、別に他の人にデータをあげてもいいということだ。ただしデータを貰っても、その別人が再生できるというわけではない。つまりコピーではなく、再生を制限することによって、著作権の保護と、個人の運用を最大限にバランスを取ったことになる。

しかしそんなiTunes Storeでも、日本では米と比べて劣ることがある:多重課金だ。
iTunes Store USAなら、一度買った音楽は何度もダウンロードが出来、つまりユーザに取って、その「音楽のデータ」ではなく、「音楽」そのものを購入したことになる。そのためユーザの購入したものだから何度も再ダウンロードができる。iOSデバイス使ってるユーザならApp Storeを想像してみれば分かると思うが、一度購入したアプリなら、誤って削除してしまったりするとき、もう一度アプリページに行ったら、「購入」のボタンが「ダウンロード」に変わるのだ。それはApp Storeの思想はあくまで、ユーザが購入したものはアプリの「データ」ではなく、「アプリ」そのものだから、削除してしまっても再ダウンロードできないとおかしいのだ。
しかしiTunes Store Japanの音楽は著作権側の反発なのか、このような仕組みはない。一度購入した音楽は、誤って削除してしまったらもう一度購入しなければならないのだ。本日(2012年2月22日)のアップデートにより、このiTunes in the Cloud機能が使用できるようになり、多重課金の問題が解消された。
そして、iTunes USAでは現在、ほとんどの音楽はDRMフリーのiTunes Plusに対応している。これは音質が向上されたほか、DRMそのものを取り外した(ただし購入者の個人情報はデータに含まれている)ため、再生機器の制限まで取り外したことになる。つまり、いままではiTunes Storeで購入したものは、iTunesかiPod/iOSデバイスでしか再生できなかったが、iTunes Plus対応の音楽ならどんなプレイヤーでも再生できることになる。残念ながら、iTunes Japanでは、まだまだほとんどの音楽はiTunes Plusに対応していないどころか、対応しようとしないのだ。メジャーレーベルの音楽はほぼ確実と言っていいほどiTunes Plus非対応だ。対応してくれるのは個人アーティストくらいだけだ。これも同じく本日(2012年2月22日のアップデートにより、iTunes Plusは全ライブラリ対応となった。
更にiCloudの登場で多くのユーザに期待されたiTunes Matchというクラウド再生機能は、現在の日本の著作権に関する法律ではそもそも違法(著作権を所有していない、かつ著作権を所有する権利者側の同意を得ずに著作物をネット上にあるサーバにアップロードするため)だから、日本での登場は当分の間妄想だけにしておこう

おわかりだろうか、日本の著作権云々はどれだけうるさくて非人道的なものなのか。著作権は確かに大切だ、それは創作物を産み出してくれる創作者を保護しないと、創作する意欲が低下し、最後誰もがいい音楽を作ってくれなくなるのだ。しかし逆に、このような創作者を保護する一方で、ユーザエクスペリエンスを削ってしまうまですると、今度は逆でユーザが購買意欲が低下してしまうのだ。お金を払ってまで正規ルートで購入したデジタル音楽ファイルが、ネットでただで流してる違法コンテンツよりも遥かに不便だったら、それは違法コンテンツをただでダウンロードしたくなるよ。ロハだし自由に使えるし。創作者の権利を保護するのなら、お金出してまで創作物を購入し、経済面で創作者を応援しているユーザ(顧客)の権利も一緒に保護しなければならない。でなければ購入するユーザがなくなり、創作者も儲けがなくなる。こんなアタリマエのことが今の日本に成り立っていないのだ
わかり易い例を言えばJ-POPでいいだろう。日本の煩い著作権法は基本的に日本国内だけで通用するものだから、J-POPも基本的に日本国内だけを相手にして作られたものだ。一時期は中国などのアジア国もJ-POPが流行ったが、最近はなかなかないし、ましてはアメリカなどならJ-POPを知らない人がほとんどだ。
だがボーカロイド系は違う。初音ミクを始めとするボーカロイドは使用ライセンスがかなりゆるく、個人のユーザでも(法的に)手軽に扱えるため、最初は同人音楽の範囲だけで流行り始めたが、最近は外国でも流行りだし、初音ミクはロンドン五輪のオープニング投票で1位を取ったほか、「Tell your world」という曲は日本人歌手(バーチャルキャラクタだから本当に「日本人」かどうかは微妙な部分もあるが)として史上最多の世界217か国で配信されることになったという輝かしい成績をやり遂げた。ボーカロイドの産み親のYAMAHA社、初音ミクの産み親のクリプトン・フューチャー・メディア社、初音ミクを使って音楽を創作した多くのクリエイターたち、更に多くのボカロファンたち、実にめでたしめでたしなWin−Win関係を築いたのだ。これは著作権法が厳しすぎると誰にもいいことなしの最良の例だろう。

では次に電子書籍も見てみようか。
ちょっと最近まで騒いでいた「自炊代行業者」の提訴問題。これもお金を出してまで本を購入したユーザ側の視点で見ていこう。紙の本はスペースを沢山占めるため、本を持ちすぎるとなかなかスペースが確保できない。実際筆者も月に最低4冊の雑誌を購読し、更にその他のビジネス本や教科書、漫画や同人誌、大きい本棚2つが今満杯で新しく購入した本は置くスペースすらない状態だ。そんな私にスペースを食わない電子書籍はとても助かる。いつでも手軽に読める上、本棚のプレッシャーも改善できるし探す手間も省ける。しかしすでに持っている本をスキャンしてデータ化するのはものすごい莫大な手間だ。自炊業者に頼みたいわけだ。
実際自分が所有している本だし、どう処分するかは自分の自由だ。データ化するのももちろんその中に入るはずだ。そしてデータ化した本は自分で読むだけで、他人に渡すわけではないし、あくまで「個人運用レベル」だから著作権の侵害なんて考えられない。せいぜい自炊業者に頼むのに、もちろん自炊業者にはお金が入るわけだ。しかしその分のお金を出しているのはユーザ側であって、著作権側は特に何の損もない。ユーザが好きな本をいつでもどこでも自分が読めるようにデジタル化にしただけだ。なにせユーザに取って、「本を購入した」というのは、本の「紙」という実体ではなく、「内容」だ。

このように考えると、自炊代行業者を提訴するのは本当に無意味で、正当な理由すらないのだ。まあ自炊代行業者がユーザからもらった本のコンテンツを再配布した入りしたらまた話は別だが。しかしむしろ、貴方達出版社が最初からデジタルコンテンツを出したり、自炊代行してくれたりしたら話が済んだのに。

自炊代行以外にも、日本の電子書籍は本当に時代遅れだ。自分がいつも購入しているMac FanとMac Peopleという雑誌だが、本棚が足りなくなってきたため去年からマガストアから購入し始めたが、いかにも絶望的にロークォリティなものだった。簡単に想像できるだろう、今の本はパソコンで編集し、そのデジタルデータを印刷所に送り、アナログな本に印刷したのだ。いわゆるDTP、デスクトップパブリッシング方式だ。なのにマガストアを始めとする日本の電子書籍ストアは、特に雑誌類はそんなデジタルデータで印刷されたアナログな本を、もう一度スキャンしてデジタル化し、「電子書籍」として販売するのだ。いかにも馬鹿馬鹿しい方法だ。最初からデジタルデータからPDF化し、販売すればよかったものなのに、わざわざ印刷された本をスキャンし、PDF化するというやかましい方法を取るのが日本流なのだ。DTPのデジタルデータなら文字がちゃんとテキストとして存在し、検索も拡大も簡単にできるのに、本をスキャンしたら画像だけとなり、検索もできないし、拡大すると文字もぼやけてしまう。そもそもA4サイズの紙を想定して作られた本なのに、iPadのB5サイズのスクリーンで、しかも150dpi未満のディスプレイで読むと拡大しないと文字が小さすぎてほとんど読めない。

そして電子書籍の価格設定もおかしい。紙の本なら、紙代、印刷代、印刷機の維持費、物流費、在庫コストなど、DTPデータが出来上がるから本がユーザの手に届くまでたくさんのコストがかかる。電子書籍の場合は決済システム、サーバ維持費などの費用がかかる。電子書籍の場合、コストが遥かに少ない上、ほとんどはプラットフォームを持つ、例えばAmazonやAppleがその費用を負担する。そのため実際出版社にとって電子書籍の実質コストは紙の本より遥かに低いにもかかわらず、日本は電子書籍の値段は紙の本とほぼ変わらない。アメリカなどの欧米の国では電子書籍は確実に紙の本より大分安いのに、日本はそんなことがない。更にスティーブ・ジョブズの公式伝記など、本来紙の本は厚さの関係で仕方なく分冊して販売したのに、その分冊は厚さに無縁の電子書籍にも反映し、iTunes Storeでは紙の本と同じく2冊に分けて販売している。

紙の本をスキャンしてPDF化するだけは電子書籍ではないというアタリマエのことを、日本の出版業界のお偉いジジーババーにはわからないのだ。奴らにとってそもそも電子書籍なんて紙の本を売るためのプロモーションツールだけだ。

ところで余談だがもしドラの作者岩崎夏海は「本は購入した人の所有物ではない」というマジキチ発言をしたのだが、そもそもこいつは同じものを大量に買わせようとするマジキチAKB商法の産み親である秋元康の友人だしAKB48のアシスタントプロデューサーやってたし、「本」をただの紙屑だと考えて同じ本を何回も買わせようとする姿勢だからそんなマジキチ発言をするのもあたりまえだろう。というかそもそももしドラですらこいつのテキストでなく、イラストさんの絵で売れたものだし。岩崎ご自身はそもそも「マネジメント」きちんと読んだことすら無いだろう。

音楽と電子書籍はただ日本の腐れた著作権関係の2つの例に過ぎない。もし日本は本当にカルチャーを輸出したいと考えているのであれば、まずこの腐れた著作権関係の法律や考え方を何とかすべきだ。でなければ海外輸出どころか、いずれは海外のより便利なサービス等に慣れてしまった日本人にすら相手にされないだろう。

Author: 星野恵瑠

Mac user, Niji-Ota, Chinese, Now working in Japan at MAGES. Inc., Future's aim is that one day my name can be listed in Wikipedia

2 thoughts on “日本のデジタルコンテンツの著作権事情から思ったこと”

  1. そう言えば、確かにアマゾンが日本に進軍するという話が見たことがあった。何だか出版社に時間制限を付けてサインインしてほしいって。(ーー゛)

  2. @EmiNarcissus
    あれ読みましたよ。出版社側はそれを喜べませんね。しかし、適切に対応しないと、アマゾンという新しい『黒船』にシェアを奪われるかも知れません。

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